ダイヤルインは繰り返し。
でも記憶は薄れる。
一杯のコーヒーには少なくとも4つの変数がある。分量・温度・時間・収率。さらに豆と挽き目を加えれば組み合わせは数百通り。人の記憶はそれを支えきれない — 三日で薄れ、豆が変われば最初に戻る。味がばらつくのは腕が足りないからではなく、記憶任せにしているからだ。
バリスタとして毎日抽出を繰り返した。ある豆は17.5gで完璧、別の豆は19gでないとだめ。温度が1度違うだけで味が変わった。
思い出せなかった。」
豆が変わった日、開店が20分遅れた。前日のセッティングを思い出せず、客を待たせながら一から抽出し直した。完璧な設定を見つけても記録しなければ、毎回が最初からになる。
カフェを辞めた今も同じだ。ハンドドリップ一杯で一日を始めるが、昨日はおいしくて今日はそうでない。分量だったのか、湯温か、抽出時間か — わからない。記録していなかったから。
完璧な一杯を一度淹れたなら、もう一度淹れられるべきだ。この数字を保存しておけば次も再現できる。豆が変わっても、天気が変わっても、昨日成功した設定をすぐ取り出せる。